さかもとけんいちさんの、愛の本
一冊の本がある。
さかもとけんいちさんという小さな古本屋さんが、絵と手書きの言葉を書いたものを集めた『ほんじつ休ませて戴きます』という本。
何年も前に買って途中まで読んだが、けんいちさんの人を思う温かさや人情、人生の深さなどが迫ってきて、涙が出て仕方なかった。
あまりに感情を揺さぶられるので、読むのをやめてしまっていた。
そして、今日思い立って、その本を探してみた。ダンボールの中の一番上に見つかった。
私は泣きたかった。母を亡くして、悲しかったけど、葬儀や普段の生活が過ぎていって、なんとか整理がついているふりをしていた。
意外と、悲しむ事って少ない。
悲しむのは辛いから、きっとしばらく避けていたんだね。
でもうつになって、動けなくなって、やっぱり母に対して悲しんでみようって思った。
そんな時に思い出したのがこの本だ。
けんいちさんは、ものすごく深く奥さんを愛していた。けれど、奥さんが先に亡くなった。
私も大切な人を亡くしたものとして、まだ読めてなかった後半を読む気になった。
けんいちさんが入院している奥さんに送った愛があふれるハガキのことばを読みながら、どれほど悲しかっただろう。病気になってどれほど心配しただろう。生きてほしい、元気になってほしいと願っただろうと、私は涙した。
その中のひとつを抜粋させてもらいます。
脚がむくんでうっとおしいね
土曜日の晩うんとさすってあげるからね
どうしてもどこか一ヶ所しんどいところから
はなれられない
人間ってきっとそうなんだよね
どんな人だってきっと一つぐらい悪い処がある
それでも平気で生きている
それを支えていてくれてるのは
人と人との思いやりだ
私が君を想うのは当り前
でもたくさんのお前のお友達が遠い処から
お見舞いに来て下さる 有り難いことだよね
私は今生きづらさを抱えて立ち止まっている。
その一ヶ所がとてつもなくしんどく感じる。
そのしんどさを消したいと、もがいている。
けれどそれを抱えて生きていくんだと、
けんいちさんに教えてもらった。
何年も前の私が、この本を今の私のために用意してくれたのかな…